先日、東京都日の出町の町議会議員選挙で、町内に住んでいる実態がないため被選挙権がない男が立候補し、選挙が行われたというニュースがありました。
任期満了に伴う東京 日の出町の町議会議員選挙は、町内に住んでいる実態がなく、被選挙権がない男性が立候補した結果、候補者が定員を上回り、25日投票が行われました。この候補者の票はすべて無効票となりましたが、投票が行われたことで400万円の費用がかかったということです。(中略)
候補者の1人である50歳の男性が被選挙権がないことを選挙公報でみずから明らかにし、選管の調査で、町内に住んでいる実態がないことが分かりました。(中略)
選管によりますと、公職選挙法では、立候補の届け出の書類が形式的に整っていれば、住所要件で却下することはできないということで、法律に従って開票作業の直前に無効票として扱う対応を決めたということです。
出典:NHK NEWS WEBの記事より
地方の議員や自治体の長(県知事・市長など)に立候補するための要件に住所規定というものがあります。ざっくりいうと、立候補する地域に3ヶ月以上前から継続して住んでいないといけないというものですね。今回のニュースではこの住所規定を満たしていない人が立候補し、投票前にわかっていたにも関わらず、失格にならずそのまま投票が行われたということです。
なんだか不思議というか、被選挙権がない候補者に投票した人の選挙権はどうなるんだとか、納得いかないところもありますが、現行の法律ではそういったルールになっているということなんです。
実はこれまでも同じように被選挙権がない人が選挙に立候補して、選挙が実施されたことは何度もあるんです。そして、被選挙権のない候補者の扱いについては最高裁判所でも争われて、判例もでているんですね。
今回は被選挙権がない候補者の扱いについて、カンタンにまとめてみます。
まず、被選挙権についてですね。被選挙権は公職選挙法という法律で定められています。
《公職選挙法より抜粋》
(選挙権)
第九条 日本国民で年齢満十八年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。
2 日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。
3 日本国民たる年齢満十八年以上の者でその属する市町村を包括する都道府県の区域内の一の市町村の区域内に引き続き三箇月以上住所を有していたことがあり、かつ、その後も引き続き当該都道府県の区域内に住所を有するものは、前項に規定する住所に関する要件にかかわらず、当該都道府県の議会の議員及び長の選挙権を有する。
4 前二項の市町村には、その区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村の区域の全部又は一部となつた市町村であつて、当該廃置分合により消滅した市町村(この項の規定により当該消滅した市町村に含むものとされた市町村を含む。)を含むものとする。
5 第二項及び第三項の三箇月の期間は、市町村の廃置分合又は境界変更のため中断されることがない。
(被選挙権)
第十条 日本国民は、左の各号の区分に従い、それぞれ当該議員又は長の被選挙権を有する。
一 衆議院議員については年齢満二十五年以上の者
二 参議院議員については年齢満三十年以上の者
三 都道府県の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの
四 都道府県知事については年齢満三十年以上の者
五 市町村の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの
六 市町村長については年齢満二十五年以上の者
文章は法令そのままです。太字の部分が住所規定ですね。ちなみに3ヶ月以上住んでいないと被選挙権だけでなく選挙権もないことがわかりますね。
住所規定は不要ではないかとの意見もあるようですが、まぁ、コレがないと投票の日に1日だけ住民票を移して選挙権を得るなんて不正もありえますしね。住所規定がなければ全国の知事選に毎回投票するなんてこともできなくはないわけですから。
さて、ではこうした被選挙権の要件を満たさない、つまり被選挙権がない人が立候補したときにどうするべきかというのは、過去に裁判で争われ、いくつかの判例があります。
まず、1961年の最高裁判所の判例で、「公職選挙法の規定によれば、選挙長は、立候補届出および推せん届出の受理に当つては、届出の文書につき形式的な審査をしなければならないが、候補者となる者が被選挙権を有するか否か等実質的な審査をする権限を有せず、被選挙権の有無は、開票に際し、開票会、選挙会において、立会人の意見を聴いて決定すべき事柄であると解するを相当とする」というものがあります。
届出の文書に問題ければ、候補者に被選挙権がないことがわかっても選挙管理委員会では立候補届出を却下したり、失格としたりすることはできないということですね。届出の文書はフォーマットが決まっていて、各種証明書もつけなければいけないので、年齢や国籍などは確認されますが、同住所に住んでいる期間などは確認されないようです。なので住所規定に反しているのに立候補できるなんてことが起きるわけです。
そうして、被選挙権がない候補者が立候補したときには、あくまで開票するときに立会人に確認したうえで被選挙権の有無を判断するということなんですね。
これは最高裁判例なので、今後また同じようなことがあってもそうカンタンにはひっくり返ることはないはずです。
それどころかですね。1951年11月の福岡高等裁判所の判例で、「選挙事務関係者が選挙期日前に特定の候補者の被選挙権がないことを公表することは、その候補者の選挙運動を著しく妨害し、選挙の自由公正を害する」というものもあるんです。
つまり、選挙管理委員会が候補者に被選挙権がないことを公表すると選挙妨害にあたり、選挙管理員会側が不法行為をはたらいたことになるというのです。
そんなわけで、僕の感覚ではどうも納得がいきませんが、タイトルのとおり「選挙には被選挙権がなくても立候補して選挙戦を行える!もちろん当選はしないけど。。。」ということになってしまうんですね。
過去には被選挙権がない人が、被選挙権の条件を勘違いして立候補をし、開票時まで自分に被選挙権がないことを知らなかったという事件もあったそうです。選挙を効率的に行い、投票する人の選挙権をムダにしないため、そして、立候補する人のためにも、被選挙権の審査は立候補の届出のときにやったほうがいいのではないかなぁ、という気がします。
過去に同じような事件がずっと繰り返されているのに法改正がされないのはなぜなんでしょうね。